ミシガン大学教授で感情コントロール学の第一人者でるイーサン・クロス博士(Ethan Kross)はその著書『Shift: Managing Your Emotions–So They Don’t Manage You』(シフト:あなたの感情を管理する、感情があなたを管理するのではなく)で、感情をいかにうまく自分の望ましい状態にシフトさせていくかについて、様々な方法を述べています。
その方法の一つが、メンタル・タイム・トラベルを使うことです。
ネガティブな感情から脱却するために、「いま、ここ」の集中することが、心理学では勧められます。怒り、不安、嫉妬、心配などのネガティブな感情は、過去の出来事をくよくよと考える、あるいは、未来の出来事を想像することから、多くの場合生まれてきます。それで、過去や未来ばかり注意を向けていないで、今、この瞬間、ここ、この場所に、意識を集中しなさいという助言です。
しかし、実は、それはとても難しいのです。人間の脳は、過去や未来など、自由に時間を飛び回り、タイム・トラベルするように出来ているのです。過去の失敗を思い出して戒めたり、未来の出来事を想像して、危機回避のための対策を取ったりすることによって、人間は進歩してきました。人間の脳は進化の過程で、過去や未来に縦横無尽にタイム・トラベルするように作られていったのです。
それに逆らって、「いま、ここ」に集中しようとしても、なかなか難しいわけです。
ですから、人間の脳に備わったタイム・トラベル機能を逆に活用してみましょう。メンタル・タイム・トラベルをしてみるのです。
まず、過去にタイム・トラベルです。過去の苦しかった経験を思い出して、今の自分の糧にしてみましょう。
- 過去に、今悩んでいる状態と同じような状況がありませんでしたか?その時は、どう乗り越えましたか?
- 過去の失敗や苦い経験から、今の自分の状況に役立てる学びはありましたか?
- 過去に今の自分の状態よりももっと苦しいことがありましたか?あったなら、今回も必ず乗り越えられます。
次に、未来にタイム・トラベルです。
- 今の苦しい出来事について、1週間後にはどう感じているでしょうか?1カ月後、1年後にはどうでしょうか?想像してみます。
- 自分の人生の終わりを迎えた時、今の苦しい出来事は、どのような意味を持つでしょうか?人生全体に波及するような出来事になっているでしょうか?
このように、あえて、「いま、ここ」の集中せず、過去にいったり、未来にいったりして、今の自分の苦しい状態が、自分の人生の時間の中でどういう意味を持つのか(あるいはあまり意味をもたないのか)、メンタル・タイム・トラベルで想像してみましょう。
人間の脳だからこそ可能な技なのです。
そして、どのような場合でも
「This too shall pass」(英語の格言で、いいことも、悪いこともいずれは過ぎ去る)
が当てはまります。
メンタル・タイム・トラベルについては「ストレスをリセットする方法② 反芻思考を止める方法その1」でも紹介していますので、ご参照下さい。

※Ethan Kross著『Shift: Managing Your Emotions–So They Don’t Manage You』を参考にしています。