ミシガン大学教授で感情コントロール学の第一人者でるイーサン・クロス博士(Ethan Kross)はその著書『Shift: Managing Your Emotions–So They Don’t Manage You』(シフト:あなたの感情を管理する、感情があなたを管理するのではなく)で、感情をいかにうまく自分の望ましい状態にシフトさせていくかについて、様々な方法を述べています。
その方法の一つが、感情を表現する時にⅠ(私)ではなくYOU(あなた)を使うことです。
Distanced seclf-talk(ディタンスド・セルフトーク)と呼ばれる手法の一つで、自分の感情を表現する時に、あえて自分をYOUと呼ぶことで、自分との心理的距離を築し、自分とは異なる見方をもたらします。自分自身のことを考える時に、他の人のことを考えるようにするのです。
心理学には「ソロモンのパラドックス」と呼ばれる現象があります。ソロモンとは古代イスラエルに存在したという偉大な王のことで、大変賢明で知恵に溢れた王であり、優れた政治を行いますが、自分のことになると正しい判断や行動ができないのです。このソロモン王にちなんて、他人の問題には的確な判断と助言ができるけれど、自分の問題には冷静な判断ができない心理を「ソロモンのパラドックス」と呼びます。
人間は自分のこととなると、感情的になり、論理的あるいは最適な判断ができない傾向にあるのです。
この「ソロモンのパラドックス」に陥らないようにするためにYOUを使うのです。
I am stressed out.(私はストレスいっぱいだ)
You are stressed out.(あなたはストレスいっぱいだ)
この違いは大きいのです。
前者は、「私」がパニックになったり、心臓の鼓動が激しくなったり、心配と不安でいっぱいになっています。
後者は、「他の人」がストレスでいっぱいになっているので、その人に対して共感や同情、慰めや落ち着かせる言葉を投げかけようとします。
YOUを使うことで、自分ではなく「他の人」に対するように、考え、接することが可能になるのです。
YOUの代わりに、自分の名前を読んでサードパーソン化するのも、ディスタンスド・セルフトークの一種です。

このYOUを使う方法は、どこでも、すぐに、何のコストもかからず、誰でもできます。
ネガティブな感情に押しつぶされそうになったら、まず、YOUを使って、自分の状態を表現してみましょう。自分の感情との間に、距離を作り、感情から離れたところから、その状態を観察してみるのです。
※Ethan Kross著『Shift: Managing Your Emotions–So They Don’t Manage You』を参考にしています。