生きていく上で、気分が落ち込み、自分自身に失望することは誰にでもあります。仕事の失敗による自己批判、無力感、あるいは周囲の人達との衝突による自己否定、憂鬱、不安など、落ち込む原因は様々。落ち込みと人生はセットといってもよいくらいです。
落ち込むこと自体は避けられないとしても、落ち込みから立ち直る方法を身に着けていけば、暗い穴の底にいるような状態から早く抜け出すことができますし、落ち込む原因と遭遇しても、ダメージを小さくすることができます。回復力を鍛えていくのです。
このシリーズでは、Sue Varma氏の著書『 Practical Optimism: The Art, Science, and Practice of Exceptional Well-Being』を参考に、落ち込みから立ち直る方法を紹介していきましょう。
まず、落ち込んだ時、自分はなぜ、どのように落ち込んでいるのか、自分の感情を観察します。これはエモーショナル・プロセッシング(Emotional Processing)という方法で、自分がどのように感じていて、その感情がどの出来事に由来しているのかを、正確に理解します。
そして、その感情をラベリング、つまり、名前をつけます。
自分の感情や、その感情が起こった原因は、意外と正しく把握していないものなのです。
たとえば、Aさんが仕事でミスをして、職場の上司に叱責されたとします。
当然Aさんは落ち込みます。自分はなんてダメな人間なんだろう、無能だ、上司の自分への評価は下がっただろう、もうこの部署にいられないかもしれない・・・などと、次から次へ悪い想像をして、ますます落ち込んでいく・・・。
ここで、もう少し正確に自分の感情を見つめてみましょう。
自分が今落ち込んでいる一番の原因は何でしょう?ミスを上司に叱られて、自分が能力がないと思ったから。上司が自分を無能だと思っただろうから。自分の無能感が落ち込みの原因だと理解します。
Aさんが感じている落ち込みの感情にラベリングするとしたら「無能感」です。
こんなミスをする自分は能力がない。
上司に認められない。
今の部署にいられるような能力がない。
Aさんの今の感情には「無能感」というラベルが一番合っているようです。
ネガティブな感情にわざわざラベリングするなんて、嫌な現実と向き合うようで、自分をますます落ち込ませるだけだと思うかもしれませんが、ラベリングすることで、少し自分と感情の距離を取ることができるのです。自分=感情だったものが、自分≠感情に切り替わります。
感情は自分の一部ではあるかもしれませんが、自分自身のすべてではありません。そして、自分の感情をラベリングする作業を通して、感情から離れる時間を取ることができます。タイムアウト効果です。これだけでも、ひたすら落ち込み続ける状態から、自分を救出することができます。
次の段階として、感情に「無能感」というラベルをつけたら、その「無能感」についてもう少しつっこんでみます。これにはWHY?(なぜ?)で自分に問いかけていく方法が有効です。
なぜ「無能感」を感じたのか?→仕事でミスしたから。
なぜ仕事でミスしたのか?→資料に載せる数字のダブルチェックをしなかったから。
なぜダブルチェックをしなかったのか?→締め切りが迫っていて時間がなかったから。
なぜ時間がなかったのか?→取り掛かるのが億劫で遅くなったから。
なぜ締切が迫ったのか?→取り掛かるのが遅かったから。
なぜ取り掛かるのが遅かったのか?→他の仕事を先にしていたから。
ここまでWHYを繰り返していくうちに、仕事の優先度と段取りをきちんとすれば、ミスは防げたかもしれませんし、そうすれば上司に叱責されることもなかったかもしれない・・・と理解し始めます。
つまり「無能感」という、オーバーな落ち込みをする必要はないということなのです。
しかし、同じミスを繰り返していれば、それは本当に「無能」になります。
だから、同じミスを繰り返さないよう、できる対策を取ればよいのです。
一つのミスで、Aさんのすべての能力が否定されたわけではありません。無能というわけではありません。
それよりも同じミスを繰り返さない対策をすることに注意を向けるべきなのです。
このように感情のラベリングにより、感情と自分自身の距離を取り、その感情の原因をWHYで深堀していくことにより、自分を落ち込みの穴から脱け出させ、対策を考える自分に変化させていくことが可能です。
感情のラベリングを上手に利用しましょう。