ミシガン大学教授で感情コントロール学の第一人者でるイーサン・クロス博士(Ethan Kross)はその著書『Shift: Managing Your Emotions–So They Don’t Manage You』(シフト:あなたの感情を管理する、感情があなたを管理するのではなく)で、感情をいかにうまく自分の望ましい状態にシフトさせていくかについて、様々な方法を述べています。
嬉しい、楽しい、満足といったポジティブな感情だけでなく、怒り、不満、恐れ、心配などのネガティブな感情も毎日私達の中に沸き起こってきますが、感情に振り回されて行動したり、落ち込んだり、自暴自棄になっていると、人生は滅茶苦茶になってしまいます。自分の目標や、こうなりたいという理想からも遠ざかってしまいます。
人間に感情が生まれるのは当たり前であり、ネガティブの感情でさえ、自分の心身を守るために必要なこともあります。しかし、できれば、感情をうまくコントロールして、自分のためになるよう、自分を励ますように使っていきたいものです。
このシリーズでは、クロス博士の『SHIFT』を参考に、感情を自分にとって役に立つ方向へシフトさせていく方法を紹介していきたいと思います。
まず、ファースト・ステップとして、怒り、心配、不安、不満などの負の感情が沸き起こってきた時に、その負の感情に押し潰されて感情を爆発させたり、自暴自棄な行動を取ったり、周囲の人間を攻撃・批判する前に、自己効力感を取り戻すことを習慣づけましょう。
自己効力感とはSelf efficay(セルフ・エフィカシー)のことで、「自分はできる」という自分の能力を信じられることです。
負の感情に覆われている時に自己効力感を感じるなんて不可能に思うかもしれませんが、実はすごく簡単に自己効力感を感じることができるのです。
それは、自分がコントロールできることと、コントロールできないことに分けることです。
そして、自分がコントロールできることだけを行います。
自分がコントロールできることと、できないことを分ける能力こそ、自己効力感なのです。
負の感情に襲われている時は、これができていないことが多いのです。
例えば、Aさんは、電車の事故があり、電車が止まってしまい、大事なお客様とのミーティングに遅刻しそうになっているとします。お客様とのミーティングに遅れたりしたら失礼だし、お客様を怒らせるだろうし、ミーティングがキャンセルされるかもしれない、時間を守れないダメな奴だと上司に叱責されるだろうし、チームから外されるかもしれない。自分の職場での評価も下がるだろう。電車の事故って、自分のせいではないのに、なぜこんなタイミングで起こるのだろう?電車はいったいいつになったら動き出すわけ?なぜ、鉄道会社は事態を収拾しないのだろう?駅員に文句言ってやる!
このようにAさんの心は、不安、動揺、心配、怒りで荒れに荒れています。まさに、負の感情にAさんがハイジャックされて、感情に振り回されている状態です。
Aさんがやるべきことは、この事態に対し、自分がコントロールできることと、コントロールできないことの見極めをすることです。
先に、自分にコントロールできないことを挙げてみましょう。
- 電車の事故が起こったことにより、電車が止まってしまったこと。
- いつ電車が運転開始になるかわからないこと。
- アンラッキーな事故により、お客様とのミーティングに遅れる事態になったこと。
- 自分がミーティングに遅れることにより、お客様が不快に思うこと。
- 自分がミーティングに遅れることにより、上司の自分への評価が下がること。
次に、自分にコントロールできることを挙げてみましょう。
- 電車以外でミーティング場所に行く方法があるか調べる。
- どうしてもミーティング時間に間に合わないことがはっきりしたら、この事態を職場の上司に報告し、指示を仰ぐ。
- この事態をお客様に電話で報告する。
Aさんが自分でコントロールできることを見極め、それに集中して行動します。
このようなピンチでも、自分にできることがあるということは、自己効力感に繋がります。
自分にできることに集中して行動していると、負の感情の波にさらわれなくてすみます。
それでも、心配や不安や動揺はまだあるでしょうが、自分が何らかの行動を取っていることによって、パニックにならずに済みます。
結果として、Aさんのお客様とのミーティングはキャンセルされてしまい、なぜもっと時間的余裕をもって出かけなかったのかと上司から叱責されることになるかもしれません。
しかし、Aさんはその状況で自分にできる精一杯のことをしたと思えれば、立ち直って、もう一度お客様とのミーティングを行えるよう、チャレンジする気力を維持できると思います。
負の感情に襲われた時こそ、自分にコントロールできることと、できないことを見極めましょう。
その際、自分にコントロールできないことの二大例は、他人と過去(起こってしまったこと)であることを認識しましょう。
自分以外の人の感情は、自分にはコントロールできません。Aさんのケースでは、お客様や上司の気持ちはコントロールできません。
既に起こってしまった事態は、どうにも変更しようがありません。Aさんのケースでは、電車の事故で電車の運転が止まってしまったことは、なしにはできません。
自分にコントロールできないことに感情を振り回されていると、何の解決の道も見つけられません。自己効力感からどんどん遠ざかってしまいます。
ですから、まずは、自分にコントロールできることと、できないことを見極める癖をつけましょう。それが自己効力感を高める近道です。
※Ethan Kross著『Shift: Managing Your Emotions–So They Don’t Manage You』を参考にしています。